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キックボクシングとは | 強いのか。ボクシングや空手との違いは?

キックボクシングのイメージってどんなものでしょう。

ボクシングは武骨な格闘技の世界にあって、比較的スマートでテクニカルなスポーツという感じ。

総合格闘技(MMA)は「闘う男」「戦士」といった言葉がそのまま当てはまるような、汗と血みどろのぶつかり合いといったイメージ。(実際はボクサーも戦士、総合格闘家もアスリートです)

じゃあキックボクシングは?

かつてのK-1を知っている方ならば、華々しい舞台で声援を浴びる人気者を思うかもしれません。
個人的には「いうとくけど俺キックボクシングやってっから」と息巻く往年の不良少年の印象も捨てがたい。
女性がダイエット目的で始めるクールな趣味みたいな側面もあります。

今回はそんないまいち実体のつかめないキックボクシングを、その「内容」そして「強さ」の面から解説していきます。


1.キックボクシングとは?

まあ言葉の通りで、キック+ボクシングという訳なんですが、この競技っていったい何者なんでしょう。いつどうして生まれて、今日まで続くのか。

最初にちょっと昔の話をします。

ムエタイって知ってますか?
タイの国技にして立ち技最強とも称される、完成された技術体系を持つ格闘技です。

ムエタイは空手の天敵でした。

かつて型を主体とした文字通り形式的なスタイルの伝統的な空手から派生し、真の最強を標榜して旗揚げされた実戦空手というものがありました。彼らが打ち立てた「実際に本気で殴り合う」という今日では当たり前のコンセプトは当時の日本武道にしてとても先進的なものでしたが、暫くの後、それはタイから小遣い稼ぎにやってきた「本国ではそこらへんに沢山いるようなムエタイ選手」達によって完膚なきまでに打ち砕かれます。

敗因は空手の動作の根幹にある考え方です。当時の空手はなおも伝統的に取り決められた作法に縛られていました。ムエタイの動作にこれといった作法はなく、それゆえ野生動物のように合理的で、並み居る空手家達を蹂躙していきました。

こうしてムエタイ>空手の構図が出来上がります。それから柔軟にムエタイを学び始める者もいれば、空手に固執し敗北を認めない者もいる中で、ある一人は「空手と現代格闘技の要素を混合した新たなる格闘技を生み出せばいいじゃないか」との考えに思い至りました。そうしてついに生まれたのが、





空手ボクシングです。

空手とボクシング、ムエタイを融合させた新たな競技です。さっそく彼は興行を打ち立て大会を開催しましたが、その奇抜な名前からかあまり受けは良くありませんでした。ということで彼は競技名をカタカナが並んでかっこいい「キックボクシング」と改め、打倒ムエタイを掲げて動き出しました。空手消えちゃった

ともあれ、キックボクシングの人気は当時の格闘技ブームの波に乗って爆発しました。それから紆余曲折合って2000年代のK-1全盛期、今日の那須川天心&武尊時代へと繋がっていきます。

そんなことで、現代のキックボクシングは組技を多分に含む「ある種の総合格闘技ムエタイに色濃く影響されながらも、特にキックとパンチに重きを置いた競技となりました。これは実は前身であった実戦空手がキックとパンチだけの競技であったことに由来します。つまりキックボクシングは、空手の伝統の代わりに実戦を、空手のキックの代わりにムエタイのキックを、空手のパンチの代わりにボクシングのパンチを使用する、全てをかなぐり捨てた空手なのです。(?)


2.キックボクシングは強いのか?

近頃は総合格闘技の隆盛の中でキックボクシングの強さに関する議論が活発化してきました。変容し、若い女性を主要な客層の一つに定めつつあるジム側としても、以前より「護身術」という側面を前面に押し出す事が増えています。そんなキックボクシングが路上において、また格闘技の世界においてどれだけ強いのかを理由と共に説明します。


まず喧嘩や護身術の道具として見る場合。

これは明らかに「とても強い」です。

ここでいう「とても強い」とは、例えば低身長で細身の女性が1年間の練習を積んだ場合に「体格で大きく上回る暴力的な素人男性や、体格で多少上回る黒帯の少林寺拳法家の男性を易々と無力化出来る」程度を表します。

以下は大まかな理由です。

キックボクシングは護身術として実際に機能するための前提条件である「実戦形式の試合」をフルコンタクトルールで採用しています。フルコンタクトとは簡単に言えば「本気で相手を殴る」という意味合いです。

路上の暴力沙汰は、あえていうならフルコンタクトのパンチ、キックに加えて組技が許可された総合格闘技ルールに近いといえます。キックボクシングではその中で「打撃」に関してはほぼ同様の状況を想定した訓練を積む為、喧嘩や護身の際に高い効果を発揮するというわけです。

特に素人の喧嘩では殆どの場合で立ったままの殴る蹴るか、取っ組み合いから押し倒して殴る蹴るのどちらかの手段が用いられます。人間ならパンチとキックは本能である程度できる「気がします」が、柔道や柔術レスリングは学ばないことには動作の想像もつかないので。そしてキックボクシングの技術はこれらの攻撃に対してじゃんけんのようにちょうど相性が良いです。ジムで「当てるつもりで殴ってくる相手」を体験できるフルコンタクト競技にあって、形と呼ばれるダンスの練習を主体とした伝統的な武道・武術にはない特性です。

ただし日本では、特に男性の場合ですが、相手の肉体に大きな傷をつけるキックボクシングは簡単に「過剰防衛」を適用されてしまうのが最大の難点です。傷が目立たない柔道やレスリングの投げに比べて、警察の心象はかなり悪いようです。


次いで、ボクシングやMMAのような現代格闘技の中での強さについて。


これは「普通」です。

ボクシングと同じくらいの立ち位置です。

特別強い人も弱い人も数多くいますが、キックボクシング単体でその強さを評するならばこれといって強くも弱くもありません。

「弱くない」理由については上記の路上編で述べた内容に近いです。付け加えるなら格闘技で最も競技人口の多いボクシングに対して相性が良いことと、特にアメリカではキックボクシングから総合格闘技へと乗り換える方法が確立されているという他力本願な強みがあります。

「強くない」理由では、主にレスリングのような組み技と柔術的な寝技に乏しいことが大きいです。多少ムエタイから輸入した組み技の技術が残されてはいるものの、実際に用いられる事はほぼありません。

訓練された格闘家同士の戦いでは殴り合いと取っ組み合いの二つの状況が繰り返されますが、この状況をどちらかからもう一方へと移行させるのは組技の技術となります。つまり組技において大きく優れる側は、殴り合うか組み合うかを自由に決定する権利を持っているわけです。これがキックボクシングが強いとはいえない理由です。キックボクシングのような打撃の技術が十全に活かされるのは自分と相手の組技の能力が拮抗しているか、自分がより優れている場合ですが、キックボクサーは総じて組みが弱いです。そのため「キックボクシング単体では現代格闘技の中でも更に強いとは評し難い」と結論付けられます。

以上がキックボクシングの強さに関する考察でした。

3.キックボクシングをやるべきか

一通り解説して、これといって特色のない競技である事がなんとなく分かりました。単純にキックボクシングが好きで始めたいという方、近所にあるのがキックボクシングジムだけで気になっているという方に対しては、引き止める理由がないという点でお勧めします。おそらくキックボクシングは貴方の想像している通りの競技です。

それに加えて、キックボクシングを積極的にお勧めしたい相手もいます。最後にそういった層の方向けの説明をしたいと思います。


まず若い女性で現代格闘技を学んでみたいという方。
キックボクシングジムには女性クラスが設置されていることも多く、ボクシングや特に総合格闘技に比べて女性率が高いです。同性の仲間がいた方が居心地も良いと思われますし、実戦形式の練習でも階級性別を合わせられる分より安全に試合に近い内容のものを行えるでしょう。

それと、野郎と肌付き合わせて揉み合いたくねーよという方。
組技を含む格闘技ではどうしても相手の汗が自身にべったりと付着したり、髪の毛が口の中に入ってきたりします。組み合うことのないキックボクシングならそんなことはありませんので、安心してご利用いただけます。


4.まとめ

以上がキックボクシングの解説と、強さに関する考察でした。この競技は格闘技を転々とする私が中でも「メイン」と捉えているスポーツですが、贔屓はせず他競技と公平に評価したと思います。とはいえキックボクシングが大好きなので、この記事にて興味を持って頂けた方がいらっしゃいましたら是非とも近くのジムの門を叩いてみて下さい。最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。